ニャ王を送り戻って来ると、居間のドアのガラス越しに、抹茶の影が映っている。
「まっちゃん、ただいま〜♪」
少し開けたドアから、抹茶が玄関に向かっていくのである。
ニャ王の靴を探しウロウロ。
臭いをたどりウロウロ。
ドアを見上げ座っているのである。
「抹茶く〜ん。玄関は寒いからおいで〜。」
まだ来ない。
「父ちゃん仕事よ〜。」
クルッ!!
(えっ!?そうなん?!)
「今、笑ったよね・・・」
“タッタッタッタッ♪”
軽快な足音で、部屋に戻って来たのである。
「いやいやいやいや〜え〜〜〜。」
戻って来てからというもの、タワーの中段に座り、身動きひとつしないのである。
「どうした?なんか面白いものでも見える?」
抹茶の顔に自分の顔を近付けてみる。
しかし、何もないのである。
しかもカーテン越しで余計に見づらい。
(何?!そんな急に、顔近付けてくるなよ。)
抹茶が私の眼鏡に、鼻をチュン♪
「ん??何も見えんやん♪黄昏とった??」
抹茶の背中を見ながら、時々、ふと込み上げる感情がある。
私の実家は自営業で、唯一、日曜日だけがお休みだったのである。
仕事が忙しい事と祖母が一人だということもあり、すぐそばではあったが、別で暮らしていたのである。
日曜!!
両親の休み!!!
しかし鍵がかかっている。
“ピンポーン”
“・・・・・・”
ガレージにも車がないのである。
「おばあちゃん・・・鍵締まってた・・・車もなかった・・・」
その夜、母が
「お土産♪」と、洋服等を持って来てくれたのである。
私には五つ上の姉がいるのだが、
「お姉ちゃんとお揃いやで♪これがええって、決めてくれたで♪」
「抹茶くん、行ってくるね。お留守番お願いしますね。」
「抹茶くん、ただいま〜。お留守番有り難うね〜。」
必ず、声をかけるようにしているのである。
一人(にゃん)取り残される淋しさ。
「まっちゃ〜〜ん♪」
(も〜〜ベタベタすんなや〜〜〜)
今日も私の愛情は、空回りなのである。