十歳になっていたワシは慢心していた。アイドル気取りで天狗になっていた。だからなのか…?あの年は異常だった。
年明けてしばらく経った頃いつものように、のんべんだらりと散歩をしておったら、一匹の子犬が鼻を鳴らし近づいてきた。一緒に散歩していたアライ家母は、おや?と思ったのだろう、止せば良いのにその子犬に近づいた。その時すでにワシは知っていた。後ろのダンボール箱にあと3匹いることを…。
ダンボール箱の子犬。これすなわち、捨て犬だ。さんざ迷った挙げ句、アライ家母 子犬四匹お持ち帰り。どうするつもりだ!!一瞬ワシの脳裏に弟犬の代わりに捨てられた、母と姉のことがよぎった。ま・さ・か?ワシ…。それはないだろう、そう、なかった。思い過ごしだったのだが、アライ家の関心は全身全霊で子犬四匹に注がれた。
ワシ一匹蚊帳の外。
まぁそれはさておき、アライ家の奔走虚しく貰い手は一人しか現れなかった。しかし、とある情報筋から一匹三千円で飼い主を代わりに見つけてくれるペットショップがあることを聞きつけ、アライ家は別れを惜しみながら残った子犬を連れて行ったのだった。すぐにワシがアイドルの座を奪還できたのかというと、そうでもなかった。相変わらずアライ家は子犬を気にかけ、翌日曜日には、そそくさとペットショップまで偵察に出掛けたのだった。
大通りに面したそのペットショップは、車からもよく見える交差点にあり、通行人も多い。ペットショップ自体は犬猫でなく、魚や爬虫類が専門のようだった。その店の前にサークルがおかれ、犬猫が里親を待っていたのだった。
一週間目、一匹もらわれていることを車からこっそり確認、のつもりが開いた窓から つい「あっ!いた〜!」と末っ子が叫んだ。
すると、残された子犬二匹が一斉にアライ家の車の方を振り向いた。聞き覚えあるその声に、迎えに来てくれた…?と思ったのかも知れん。思わせぶりなことをしてしまったもんだ。アライ家は暗い面もちで帰ってきた。
しかしやはり気になる。と、また翌々週偵察に行った。今度は晴れ晴れと帰ってきた。
ワシはアイドルの座を再び掴んだ。のも束の間、今度は子猫をダンボール一杯拾ってきおった。今回は情が移る前にと、即日あのペットショップへ移送されて行った。偵察へは行くことはなく、ワシはホッと一息ついて夏をむかえた。
暑い夏だった。十歳のワシは暑さ寒さが体にこたえるようになっていた。もう、老いぼれ一直線と諦めながら生活していた。このまま平穏に、家族から愛され、犬生を終えるのだと。ワシは大きな過ちを犯したのか?
2000年、夏、ワシの犬生を揺るがす事件が起きた。発端は、ワシだ。