おとうさん、おかあさん、あなたたちのことを、こう、呼ばせてください。
あなたたちが仲睦まじく結び合っている姿を見て、わたしは地上におりる決心をしました。
きっと、わたしの人生を豊かなものにしてくれると感じたからです。
汚れない世界から地上におりるのは、勇気がいります。
地上での生活に不安をおぼえ、途中で引き返した友もいます。
夫婦の契りに不安をおぼえ、引き返した友もいます。
拒絶され、泣く泣く帰ってきた友もいます。
あなたのあたたかいふところに抱かれ、今、わたしは幸せを感じています。
おとうさん、
わたしを受け入れた日のことを、あなたはもう思い出せないでしょうか?
いたわり合い、求め合い、結び会った日のことを。
永遠に続くと思われるほどの愛の強さで、わたしをいざなった日のことを。
新しい“いのち”のいぶきを、あなたがフッと予感した日のことを。
そうです、あの日。
わたしがあなたを選びました。
おかあさん、
わたしを知った日のことをおぼえていますか?
あなたは戸惑いました。
あなたは不安に襲われました。
そしてあなたは、わたしを受け入れてくださいました。
あなたの一瞬の心のうつろいを、わたしはよーくおぼえています。
つわりのつらさの中でわたしに思いをむけて、自らを励ましたことを。
わたしをうとましく思い、もういらないとつぶやいたことを、私の重さに耐えかねて、自分を情けないと責めたことを、わたしはよーくおぼえています。
おかあさん、あなたとわたしはひとつです。
あなたが笑い喜ぶときに、私は幸せに満たされます。
あなたが怒り悲しむときに、私は不安に襲われます。
あなたが憩いくつろぐときに、私は眠りに誘われます。
あなたの思いはわたしの思い、あなたとわたしは、ひとつです。
おかあさん、
わたしのためのあなたの努力を、わたしは決して忘れません。
お酒をやめ、タバコを避け、好きなコーヒーも減らしましたね。
たくさん食べたい誘惑と、本当によく闘いましたね。
わたしのために散歩をし、地上のすばらしさを教えてくれましたね。
すべての努力はわたしのため。
あなたを誇りに思います。
おかあさん、
あなたの期待の大きさに、ちょっぴり不安を感じます。
初めての日、わたしはどのように迎えられるのでしょうか?
わたしの顔はあなたをがっかりさせるでしょうか?
わたしの身体はあなたに軽蔑されるでしょうか?
わたしの性格にあなたはため息をつくでしょうか?
わたしのすべては、神様とあなたたちからのプレゼント。
わたしはこころよく受け入れました。
きっとこんなわたしが、いちばん愛されると信じたから。
おかあさん、
あなたにまみえる日はまもなくです。
その日を思うと、わたしは喜びに満たされます。
わたしといっしょにお産をしましょう。
わたしがあなたを励まします。
あなたの意思で回ります。
あなたのイメージでおりてきます。
わたしはあなたをこよなく愛し、信頼しています。
おとうさん、
あなたに抱かれる日はまもなくです。
その日を思うと、わたしの胸は高鳴ります。
わたしたちといっしょに、お産をしましょう。
あなたのやさしい声が、わたしたちに安らぎを与えてくれます。
あなたの力強い声が、わたしたちに力を与えてくれます。
あなたのあたたかいまなざしが、わたしたちに励ましを与えてくれます。
わたしたちはあなたをこよなく愛し、信頼しています。
おとうさん、おかあさん、あなたたちのことを、こう、呼ばせてください。
あなたたちが仲睦まじく結び合っている姿を見て、わたしは地上におりる決心をしました。
きっと、わたしの人生を豊かなものにしてくれると感じたからです。
おとうさん、おかあさん、今、わたしは思っています。
わたしの選びは正しかったと。
わたしがあなたたちを選びました。
作者・鮫島浩二