アライ家の一員となってしばらくすると、あの日がやって来た。そうさ、重たい鎖に繋がれる日だよ。今でこそ室内犬で首輪一丁の生活だが、あの時代、…犬は外!!雑種の犬は丈夫だ!!が常識だったのだよ。ちなみにワシの首輪の色は…どうでも良いか、そんなことは。
ワシが庭に繋がれる頃には、弟犬も生家の庭に繋がれた。そして母犬と、姉犬はどこかへ消えた…。近所の子供達の間では、山に捨てられた、という噂がまことしやかに流れた。
女というのは人でも犬でも たくましい生き物だ。母と姉もどこかでたくましく、幸せに暮らしたとワシは思っている。
ところで弟犬とワシの関係だが、血縁関係にあるとはいえ、ワシはアライ家に婿入りした身、生家や弟犬ではなく、この家に尽くす所存だった。だからといってはなんだが、アライ家の皆も、ワシを一番に愛して欲しかったのだが…。
「ワシのおやつの減りがはやい?。散歩コースが弟犬の家を経由?」この疑問の答えは、お察しの通り、アライ家子供達、特に末っ子がワシの散歩のたびに、おやつを弟犬に与えに行くのだ。未練タラタラな行為だ。ワシは 「嫉妬」 という感覚を始めて知ったのだった。身内が一番のライバルになるとは…。
そんな嫉妬心をなんとかコントロールしつつ、ワシの毎日が過ぎていった。しかし 過剰なストレスが、病気の原因になるなどと、幼いワシはまだ知らなんだ。