ようこそ!ペットストリートへ
旅に出ると、どうしても猫を探してしまう。 人も、犬も、鳥も、家畜も、珍獣も、むろん少しも劣らず魅力的。 しかし、それにしたって猫が気になる。着いて早々猫に出会えたなら、その街の主から歓迎を受けたような気分になり、旅の幸先が良いような気さえするから不思議だ。
そこで。イタリアはフィレンツェの猫の話をしよう。 旅の目的は食べることにある、と固く信じているため、今回も例にもれず、ターゲットはモッツアレラ・チーズとプロシュート(ベタだなぁ、と聞こえてきそうだが)。 早朝からマーケットに繰り出し、お目当ての食材を買い込み、おしゃれを気取って公園で朝食を(2月半ばのフィレンツェは寒かった・・)、と腰を下ろすや否や、ささっと動くものが視界の端を横切った。もしや、と振り返ると、案の定。
フィレンツェで最初にお出迎えしてくれたのは、マーケット周辺を縄張りとしているらしいノラ猫さんだった。初めましてお邪魔します、と挨拶代わりにチーズとハムのお裾分け。 明らかに飼い猫ではない人間との距離のとり方、しかしノラ猫のしたたかさというには程遠く、どことなくのんびりした猫さん。その丸々と太った背中とつやつやの毛並みは、食糧事情の良さを物語っていた。
さて。フィエーゾレの話。 この子がフィエーゾレ。とは言っても、実際にこの子の飼い主さんがそういう名で彼を呼んでいたわけではない。たまたまフィエーゾレという土地で出会い、そんな感じがしたのでそう呼んでみただけ、悪しからず。 ここは、フィレンツェの中心からバスで30分ほどに位置する、小高い丘の街、フィエーゾレにある小さな美術館の中庭。そのガラスの向こうで彼は、昼寝と、毛づくろいと、観光客のお相手と、を日課としている様子だった。
やはり、この子もまんまる。この直前に訪れた小さな教会の中庭にいた黒猫ちゃんもむっちりとしていた。しかも皆、そろいもそろってほんとうにふさふさと柔らかな毛並みなのだ。やはり、猫もイタリア料理で栄養満点だと、豊かな毛並みになるのだろうか。
ちょっとアイラインがきついため、ネコ相は悪めだが、フィエーゾレは美人でとても人懐っこく、ガラス越しにこっちに幾度もすりすりし、のどをごろごろ鳴らし、そして前足をもみもみしながら、まるでどこまでもついて来たいかのような素振りさえ見せた。そこまでされちゃあ、と、結局その美術館に何時間も居ながら、ろくろく展示物も見ず、律儀なフィエーゾレと戯れて(遊んでもらって)いたのだった。 きっと教会の人たちに大事に育てられているのだろう、ふさふさとした首には皮の首輪が飾られていた。
古い石畳の道端に、低めの石塀に、レンガ屋根の上に、猫たちは皆、優雅にたたずむ。 たとえちょっぴりお太りだとしても、優雅さには変わりない。 フィレンツェの街には、飼い猫も、ノラ猫も、みな街の猫、という空気があったように思う。ペットとして猫を飼う、という概念そのものがあまり無いのかもしれない、と想像してみる。猫と共に暮す街、新鮮なチーズとプロシュートと野菜スープがこの上なく美味しい街。いつか必ずまた訪れたい。その時には、またフィエーゾレは迎えてくれるだろうか。
筆者:マサオカ