ワシの首輪の色は黄色だ。赤でも、青でもない。
夏も終わりのある夜のこと。ワシは無性に吠えたくてたまらなくなった。この首輪も、鎖も邪魔だ!高ぶる感情を抑えきれずに吠えた!!吠えた!!
男としての自覚だ。しかし、近所迷惑甚だしい。アライ家は一家総動員で、なんとかワシの口をふさごうとした。
末っ子はワシの口を紐でしばりおった。…無駄なことさ。ワシは素早く屈み込むと、前足ですっぽり紐を外したのだ。
そしてまだ見ぬガールフレンドのことを想い、夜空へ高らかに歌い続けたのだった。
そして、恋の季節は永遠の彼方へ消え去った。
ワシの恋の歌に辟易したアライ家に連れられ病院へ…。
ワシは男ではなくなったのだった。
したがって、ワシの首輪の色は黄色なのだ。女の子の色でも男の子の色でもなく、中性的な黄色がワシの色となった。
そんなワシに、恋の季節は訪れない…。
よく云うではないか。スリムな体型が素敵だと。
ワシは去勢手術後 めきめきと太り始めた。犬の食事について今より世間が疎かった時代である、チョコパイも食べた。アイスも食べた。ポテトチップも食べた。クッキーもビスケッツも。しかも、ワシは野菜嫌い。
大好物はチーズ。太らない訳がない。しかしだ。それがまた人間達にオオウケしたのだ、その樽の様な体型が。
しかし疑問が生じるな…?人はスリムな体型を好むのに、ワシの様な体型にも、愛着を感じてくれるのだ。そうか、ふくよかなのは、恥ずかしいことではない。画家が描く女性だって皆 ふくよかではないか!!それもまた「美」なのだ!!と、結論付け、ワシは獣医の「痩せなさい!」と言う命令を無視してきたのだった。(体を心配してくれた獣医には感謝している。)
アライ家は そんなワシの心構えなどツユ知らず、カリカリごはんをダイエットカリカリに変えたのだが、ワシの口にはあわなかった。いつも残したものだ。時には野良猫が、ワシが昼寝しているのをいいことに、ごはんを平らげていきおった。
アライ家は不思議がっていた。なぜ、ろくすっぽ食べないワシが痩せないのかと。
それはだな…。ご近所さんが トンカツなどの 差し入れを下すったのだよ。晩の残りものだろう。いやはや、頂いたものを残したら悪いからな。
ワシは残飯処理に一役かったおかげで ご近所さんからの愛情も勝ち得たのだった。
結局、犬も人も外見より中身だな。太かれ細かれ、要は、愛嬌があればいい。基本、笑い顔だ。それでいいのだ。