われこそは、天下無類の猫好きである、と宣言する人は多いが、大佛さんにかなう人は少ないと思う。なにしろ、かれこれ500匹余の猫たちと住んだことがあるという。世話をしていた当の奥さまのお話だからほんとうなのだろう。
それだけの頭数だと、譜代と外様に分かれていて、食事時だけ通ってくるちゃっかりものがいたり、家の前に猫入りバスケットを置いていかれたり。また、鈴をつけた通い仔猫に「君ハドコノコデスカ」と荷札に書いて付けてやったり。するとしばらくして荷札に返事があったそうだ。
「カドノ湯屋ノ玉デス、ドウゾ、ヨロシク」
とうとう「物など書かないでネコのように怠けて好きなことをして、日だまりで寝ていたい」と、猫好きにはたまらないおはなしが続く。
大佛さんは横浜グランドホテルの一室を、執筆用の常部屋にしていたが、ここにも猫たちは出没したのだろうか。1匹や2匹は、お話し相手にいたにちがいないと想像するには、私だけだろうか。
猫と暮らした鎌倉の住まいは、現在「大佛茶廊」として、土日の
週末に開館。お茶とお菓子などが楽しめる。
日本庭園を観ながらの静かなひととき。
案内板やコースターには、眠り猫がまどろむ。
(「猫のいる日々」は、徳間文庫刊で、1994年から第5刷版となるロングセラー本)